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先延ばしとは、やるつもりのことを、遅らせれば自分が損をするとわかっていながら、自分の意思で後回しにすることです。心理学者ピアーズ・スティールが2007年の研究レビューで示した定義で、同じレビューでは、先延ばしをいちばん強く予測していたのは「その作業がどれだけいやに感じられるか」でした。先延ばしの多くは、作業に向き合うときのいやな気分から一時的に逃げるために起こります。直すときに役立つのは、最初の一歩を2分でできる大きさまで小さくすることと、始める時刻と場所を前もって決めておくことです。
先延ばしとは?研究での意味
先延ばしとは、やると決めたことを、遅らせると損をすると知りながら自分で遅らせることです。英語では procrastination と呼ばれ、心理学では自分をうまくコントロールできなくなる「自己調整の失敗」の一つとして研究されてきました。
スティールは、それまでの研究者の定義をまとめて、先延ばしを「やるつもりの行動を、遅らせると状況が悪くなると予想しながら、自分から遅らせること」と定義しました(Steel, 2007)。この定義には三つの要素があります。
- 自分で選んでいる。急な仕事が入ってできなかった場合は、先延ばしとは呼びません。
- やるつもりがある。もともとやる予定のない用事を放っておくこととは区別されます。
- 遅らせると損だとわかっている。そのため、後回しにしている間もずっと気が重いままです。
先延ばしはとても身近な行動です。スティールのレビューが引用している推定では、大学生の80〜95%が先延ばしをしていて、大人の15〜20%では先延ばしが慢性的になっています。
先延ばしと、計画的な後回しの違い
後回しのすべてが先延ばしというわけではありません。もっと大事な用事を先に片づけるために、ある作業を明日に回すのは、優先順位を決めているだけです。見分けるときは、後回しにしたあとの気持ちに目を向けてみてください。考えて後回しにしたときは気が楽なままですが、先延ばしをしたときは、やっていないことが頭の片隅にずっと残ります。
先延ばしをしてしまう心理と原因
人が先延ばしをするのは、目の前の作業がいやに感じられ、その気分から今すぐ抜け出したくなるからです。スティールが691の相関データをまとめて分析したところ、先延ばしと強く一貫して結びついていたのは、作業のいやさ、締め切りや結果が出るまでの遠さ、自信のなさ、衝動性(気の散りやすさ)でした(Steel, 2007)。
作業がいやに感じられる
退屈なこと、むずかしいこと、何から手をつければいいのかわからないことは、それだけで避けたくなります。「レポートを書く」という大きな言葉のままだと、頭の中では何時間もかかる苦しい作業に見えてしまいます。
いやな気分を、今すぐ楽にしたい
カナダの研究者シロワとピチルは、先延ばしを「短期的な気分の修復」として説明しています(Sirois & Pychyl, 2013)。作業を前にした不安や退屈をやわらげるために、動画やSNSのように、すぐに気分がよくなるものへ手が伸びるという考え方です。気分はたしかに一時的に楽になりますが、作業は残ったままなので、そのしわ寄せは数日後にやってきます。
大学生を一学期のあいだ追った研究では、先延ばしをする学生は学期の初めにはストレスや体調不良が少なかったものの、学期末にはどちらも多くなり、課題の成績も低くなっていました(Tice & Baumeister, 1997)。先延ばしは、目先の楽さと引きかえに、後でまとめて代償を払う行動だと言えます。
うまくできる自信がない
「どうせうまくできない」と感じている作業ほど、始めるのがつらくなります。スティールの分析でも、自信のなさ(自己効力感の低さ)は先延ばしと強く結びついていました。失敗への恐れも、主にこの自信のなさを通して先延ばしにつながっていると考えられています。
気が散りやすく、締め切りが遠い
思いつきで別のことを始めてしまいやすい人ほど、先延ばしをしやすい傾向があります。また、締め切りや結果が遠いうちは、作業の大切さを実感しにくく、目の前の楽しみのほうが勝ちやすくなります。締め切りの直前になって急にやる気が出るのはそのためです。
完璧主義は原因なのか
先延ばしの原因としてよく挙げられるのが完璧主義ですが、スティールの分析では、先延ばしをする人がとくに完璧主義だという結果は出ませんでした。むしろ、先延ばしをする人のほうが完璧主義の傾向はやや低いくらいでした。「完璧にやりたいから始められない」と感じるときは、上で触れた自信のなさが関わっていると考えると、対策が立てやすくなります。
先延ばしの例
先延ばしは、仕事や勉強だけでなく、手続きや家事、人への連絡など、暮らしのあらゆる場面で起こります。たとえば次のようなものです。
- 1週間前から書けたはずのレポートを、締め切り前日の夜に書き始める。
- 確定申告の書類をそろえるのを、毎年3月の期限ぎりぎりまで延ばす。
- 歯医者に予約の電話をするのを、何週間も「明日にしよう」と思い続ける。
- 返事に困るメールを開かないまま、受信箱の下のほうに沈めてしまう。
- 試験勉強をする前に、なぜか部屋の片付けを始める。
最後の例のように、別の役に立つことをして、本当にやるべき作業から逃げることもよくあります。何かしらの作業はしているので、先延ばしをしている自覚を持ちにくいのが特徴です。
先延ばしと怠けの違い
先延ばしと怠けのいちばんの違いは、やるつもりがあるかどうかです。怠けている人は、やらないことをそれほど気にしていません。先延ばしをしている人は、やるつもりがあり、やっていないことを気にし続けています。そのため、先延ばしをしている間は、休んでいても心が休まりません。
| 先延ばし | 怠け | 計画的な後回し | |
|---|---|---|---|
| やるつもり | ある | あまりない | ある |
| 後回しにしている間の気持ち | 気が重く、罪悪感がある | あまり気にならない | 気が楽 |
| よくある理由 | 作業がいや、自信がない、気が散る | やる理由が見つからない | ほかに大事なことがある |
| 合う対策 | 一歩を小さくし、始める時刻を決める | やる理由を考え直す | 特に必要なし |
先延ばしを「怠け癖」と呼んで自分を責めると、作業はさらにいやなものになり、かえって先延ばしが強まります。後で紹介するように、先延ばしをした自分を許せる人のほうが、次は先延ばしをしにくいという研究もあります。
先延ばし癖を直す方法
先延ばし癖を直すには、始めるときのいやさを小さくして、始めるきっかけを前もって決めておくのが効果的です。ここでは研究や実践で支持されている五つのやり方を紹介します。
1. 最初の一歩を2分にする(2分ルール)
「2分ルール」には二つの型があります。デビッド・アレンの『ストレスフリーの整理術』では、2分以内に終わる用事はその場で片づけるというルールとして紹介されています。ジェームズ・クリアーの『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』では、新しい習慣は2分以内でできる形から始めるというルールになっています。
先延ばしに効くのはクリアーの型です。「卒論を書く」を「卒論のファイルを開いて、一文だけ書く」まで小さくすると、作業のいやさがぐっと減り、手をつけやすくなります。始めてみると作業は思っていたほどつらくないことが多く、そのまま続けられる日も出てきます。詳しくは英語のガイド「The two-minute rule(2分ルール)」にまとめています。
2. 「いつ・どこで」始めるかを決める(if-thenプラン)
「9時になったら、机で卒論のファイルを開く」のように、「もし〇〇になったら、△△する」という形で前もって決めておく方法です。心理学では「実行意図」と呼ばれます。94の研究をまとめた分析では、この形の計画を立てた人は目標を達成しやすくなり、その効果は中程度から大きいものでした(Gollwitzer & Sheeran, 2006)。始める時刻が決まっていれば、「いつやろうか」と迷う時間そのものがなくなります。
3. 始めるまでの手間を減らす
始めるまでの手順が多いほど、途中で別のことに流れやすくなります。前の晩にファイルを開いたままにしておく、運動着を玄関に出しておく、勉強中はスマホを別の部屋に置く、といった準備で、作業までの距離を縮められます。反対に、気が散るものには手が届きにくくしておきます。
4. 時間で区切る(ポモドーロ・テクニック)
「終わるまでやる」と考えると重くなる作業も、「25分だけやる」と区切ると始めやすくなります。25分の作業と5分の休憩をくり返すのがポモドーロ・テクニックで、無料のタイマーとやり方をポモドーロタイマーのページにまとめています。25分でも長く感じるときは、2分か5分から始めてかまいません。
5. 先延ばしをした自分を許す
大学1年生を2回の中間試験にわたって追った研究では、1回目の試験前に先延ばしをした自分を許せた学生ほど、2回目の試験前の先延ばしが少なくなっていました(Wohl, Pychyl & Bennett, 2010)。自分を責めると作業がますますいやなものになるので、「昨日はできなかった。今日はここから始める」と区切りをつけるほうが、次の一歩を踏み出しやすくなります。
先延ばしにしがちなことと、2分でできる最初の一歩
最初の一歩は、動詞で終わる一文にして、手を動かしている様子が思い浮かび、2分ほどで終わりがはっきりわかるものにします。よくある例を表にまとめました。
| 先延ばしにしていること | 2分でできる最初の一歩 |
|---|---|
| 卒論やレポートを書く | 文書ファイルを開いて、見出しを一つだけ書く。 |
| 確定申告をする | 去年の控えを探して、机の上に出しておく。 |
| 部屋を片付ける | 床にある物を一つだけ、元の場所に戻す。 |
| 転職活動を始める | 求人サイトを開いて、気になる求人を一件だけ保存する。 |
| 歯医者を予約する | 歯医者の電話番号を調べて、スマホに登録する。 |
| 英語の勉強をする | 単語帳を開いて、最初の5語を声に出して読む。 |
| 運動を始める | 運動着に着替えて、玄関で靴をはく。 |
| 返しにくいメールに返信する | メールを開いて、返信の一行目だけ書く。 |
| 資格試験の勉強をする | 問題集を開いて、今日やるページに付箋を貼る。 |
| 家計を見直す | 銀行のアプリを開いて、先月の明細を表示する。 |
| 引っ越しの手続きをする | 市区町村のサイトで、転出届のページを開く。 |
| お礼の手紙を書く | 便せんを出して、宛名だけ書く。 |
自分の作業に合う一歩が思いつかないときは、無料の最初の一歩ツールを使ってみてください。ページは英語ですが、日本語で作業を打ち込めば、作業をいくつかに分けて、2分でできる最初の一歩を示してくれます。やる気そのものが出ないときの対処は、やる気が出ないときのガイドで詳しく説明しています。
Startrは先延ばしにどう役立つか
Startrは、ずっと先延ばしにしている一つのことを、実際に始めるところまで手伝うアプリです。このガイドで紹介したやり方を、毎日の流れに組み込んでいます。
- 先延ばしにしていることを打ち込むと、AIが2分でできる最初の一歩を書きます。まだ大きいと感じたら「Make it smaller」ボタンで、さらに小さくできます。
- 始める時間と場所を選ぶと、その時刻に3・2・1のカウントダウンがあり、一時停止できない5分のタイマーが動きます。終わったら10分延ばすか、その日はそこで終えるかを選べます。
- それでも手が止まるときは「I'm avoiding it」ボタンで、どこでつまずいているかを選ぶと、1分ほどでできる対処が示されます。
- 予定した時刻から実際に始めた時刻までの遅れ(start delay)を毎日記録するので、始めるまでの時間が短くなっていく様子を確かめられます。
アプリの画面は今のところ英語ですが、作業を日本語で打ち込めば、最初の一歩も日本語で返ってきます。使い方の流れはStartrの日本語トップページで紹介しています。
よくある質問
先延ばし癖は性格だから直らないのでしょうか?
性格の傾向は関係しますが、それで決まってしまうわけではありません。「いつ・どこで始めるか」を決めておくだけでも目標を達成しやすくなることが、多くの研究で確かめられています。まずは最初の一歩を小さくすることと、始める時刻を決めることの二つから試してみてください。
先延ばしはADHDと関係がありますか?
ADHDの特性があると、作業を始めることや一つのことを続けることが、むずかしく感じられる場合があります。ただ、先延ばしをするからといってADHDだとは限りません。不注意や先延ばしのために仕事や生活で困ることが長く続いているなら、医療機関で相談してみてください。英語のガイド「ADHD and procrastination」でも詳しく扱っています。
先延ばしとうつ病は関係がありますか?
スティールのレビューでは、うつと先延ばしのつながりは、主に気力が落ちて作業がいっそう重く感じられることによると考えられています。何もやる気になれない状態や気分の落ち込みが2週間以上続くときは、先延ばしの問題として片づけずに、医療機関に相談してください。相談の目安はやる気が出ないときのガイドにまとめています。
締め切りがないと動けないのはなぜですか?
締め切りが遠いうちは、作業の大切さを実感しにくく、目の前の楽しみのほうが勝ちやすいからです。締め切りが近づくと、遅れたときの損がはっきり見えてきて、ようやく動けるようになります。自分で「今日の19時に最初の一歩だけやる」という小さな締め切りを作ると、早めに動きやすくなります。
Startrは、このガイドの考え方をもとにした先延ばし対策のアプリです。ずっと先延ばしにしていることを打ち込むと、2分でできる最初の一歩が返ってきます。時間と場所を選ぶと、その時刻に3・2・1のカウントダウンで5分のタイマーが始まります。登録は不要で、Webアプリはスマホでもパソコンでも使えます。
最初の一歩をもらう出典
- Steel, P. (2007). The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65–94. doi:10.1037/0033-2909.133.1.65
- Sirois, F. M. & Pychyl, T. A. (2013). Procrastination and the priority of short-term mood regulation: Consequences for future self. Social and Personality Psychology Compass, 7(2), 115–127. doi:10.1111/spc3.12011
- Tice, D. M. & Baumeister, R. F. (1997). Longitudinal study of procrastination, performance, stress, and health: The costs and benefits of dawdling. Psychological Science, 8(6), 454–458. doi:10.1111/j.1467-9280.1997.tb00460.x
- Gollwitzer, P. M. & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. doi:10.1016/S0065-2601(06)38002-1
- Wohl, M. J. A., Pychyl, T. A. & Bennett, S. H. (2010). I forgive myself, now I can study: How self-forgiveness for procrastinating can reduce future procrastination. Personality and Individual Differences, 48(7), 803–808. doi:10.1016/j.paid.2010.01.029
- デビッド・アレン(2015)『ストレスフリーの整理術 はじめてのGTD』田口元訳、二見書房(原著:Getting Things Done, 2001)。
- ジェームズ・クリアー(2019)『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』牛原眞弓訳、パンローリング(原著:Atomic Habits, 2018)。